原子スケールで起きる物理的・化学的現象を明らかにする上で、原子スケール物質の力学的特性を理解する必要があります。これまで、理論計算により力学的特性がバルク材料(多くの場合は多結晶)とは異なることが予想されているものの、計算を行う際に用いているポテンシャルに依存してヤング率(材料の変形強度を示す物性量)が高くなったり低くなったりする結果が得られているように、解明されていません。本研究室では、ナノスケールの力計測法を開発することで、原子スケール物質の力学的特性を明らかにしようとしています。
原子スケール物質の力学的特性を明らかにするには、力学的な測定(材料に加えている力の値、あるいは、材料のばね定数)と同時に物質の形状や結晶方位なども同時に把握する必要があります。しかし、このような装置は存在し居ないため、自分たちで装置を開発しています。
1. 3D CADを用いた設計
2. 部品を発注する
3. 部品を組み立てる
4. (場合によっては)制御プログラムの開発
顕微ナノメカニックス計測法
ターゲットとなるナノ材料の構造は、透過型電子顕微鏡によって観察できます。同時に、このナノ材料の等価ばね定数(力の傾き)は、長辺振動水晶振動子(Length extension (quartz) resonator: LER)の共振周波数の変化から求めることが出来ます。とまり、LERは、一種のセンサーです。
ターゲットとなるナノ材料は、対向電極とLER(センサー)の間に架橋するように配置されており、LER(センサー)側の位置をホルダー軸方向に大きく移動させるための超音波モーターと3方向に調整するためのチューブピエゾ(微動)が搭載されています。
電子デバイスのさらなる小型化を目指し、原子スイッチなど原子そのものを制御するようなナノデバイスが研究されています。これに伴い、金属ナノ接点などの電気伝導特性や力学特性に大きな関心が集まっています。しかしながら、金属ナノ接点の力学特性は、接点構造と密生に関係していることが指摘されているものの、そのような分析装置がないため、解明されていませんでした。
そこで,金属ナノ接点の力学特性を調べるため,私達の研究室では力計測センサー(原子間力顕微鏡(AFM)で用いられている手法の一つ)を組み込んだTEM-AFMホルダーを作製しました。これを用いて、TEM内で金属ナノ接点を作製し、その構造を観察しながら力学特性を測定することが可能になりました。
実験例をみると,aからdに変化していくにつれて金接点が細くなり、同時にばね定数も小さくなっていることが分かります。このようにTEM-AFMホルダーを用いることでナノ接点の構造変化に応じた力学特性を収得することができます。
白金ナノ接点の強度を測定する
左図は、白金ナノ接点を観察しながら得た電気伝導とばね定数の変化を示したグラフです。黒線で示すように電気伝導は、階段状に変化して、最後は0になります(接点が破断した)。接点は、弾性変形と塑性変形による緩和を繰り返しながら細くなっており、それぞれ、平たん領域とステップ変化部分に対応しています。一方、ばね定数も電気伝導と似たような変化をしていますが、階段状の変化がやや鈍っています。
TEM像と比較すると、白金ナノ接点が破断する前の比較的長い平たん領域は、白金原子鎖に対応していることがわかりました。これにより、白金原子鎖のヤング率を同定することができます。